今回の診療報酬改定で特に影響の大きいテーマの1つが「賃上げ」です。医療機能や地域連携をいくら掲げても、それを担う「人」がいなければ成り立ちません。他産業と比べて賃金水準が低い医療・介護分野からの人材流出は深刻です。こうしたなか、ベースアップ評価料(以下、ベア評価料)の対象職種が事務職員等にまで広がりました。「賃上げは義務ではない」と構えている医療機関は、人材確保で後れを取るおそれがあります。本稿では、改定の全体像と経営面での意義を整理します。
◆国は「全職員」のベア評価へと大きくかじを切った
今回の改定で、ベア評価料の対象は「主として医療に従事する職員」から「当該保険医療機関において勤務する職員」へと大きく変わりました。注目すべきは、看護補助者・事務職員について賃金増加率の目標が設定されたことです。国は、2026・27年度のそれぞれで「5・7%」のベースアップを実現できるよう支援する手厚い措置を用意しました。看護補助者・事務職員以外の職員の目標(3・2%)を大きく上回るこの数字には、「医療を支える職員」を正当に評価しようとする国の意思が表れています。
過去の連載(2026年1月号)で取り上げた際に、「もっぱら事務作業を行う者の除外」がもたらす経営上のリスクに触れたことを考えると、大きな前進といえます。
私が勤める病院でも、事務職員や看護補助者の賃上げは差し迫った経営課題です。5年前と比べて、求人に対する反応ははっきりと変わりました。物価高に伴う賃上げの要望や、他業界の給与水準が上がるなかで病院の事務系職員の採用が難しくなっている現実は、多くの医療機関に共通する悩みです。改定に合わせて賃金体系を整えることが求められています。
◆ベア評価料を算定しないと「入院料の大幅減算」に
入院料での賃上げ対応では、従来(24年度改定)の入院ベア評価料に相当する分が入院基本料に組み込まれる形で点数が引き上げられました。
ただし、26年3月末時点でベア評価料を届け出ていない病院には、厳しい「入院基本料の減算規定」がかかります。
たとえば急性期一般入院料1では121点が減算されます。算定しないことがかえって経営上の痛手になる〝逆転の仕組み〞です。ベア評価料に見合う賃上げを行えばこの減算は回避できるので、体制を整えておく必要があります。
外来・在宅ベア評価料でも、25年度以前から継続して賃上げに取り組んできた施設をより高く評価する点数設定となりました。これらには救済措置もあり、詳しくは表のとおりです。いずれにせよ、「賃上げに取り組んできた施設を評価する」という制度設計の考え方は、医療経営士として高く評価したい点です。
◆医療経営士としての「視点」
ベア評価料は単なる「点数」ではなく、他産業への人材流出に歯止めをかけるための「経営の道標」と捉えるべきです。目標とする賃上げ率に届かなくても、得られた収入をすべて賃上げに回せば算定は可能です。
賃上げの効果は、給与明細の数字が変わることだけにとどまりません。
「自分たちのことを大切にしてくれている」という職員の実感が組織への帰属意識を高め、離職率の低下や採用力の強化につながります。
40年に向けて人材不足が進むなか、給与水準の低い医療機関が人を集めるのはますます難しくなります。今こそ、全職種の処遇改善を戦略的に進める好機です。






