政府が推進する医療DXは、オンライン資格確認や電子処方箋から、電子カルテ情報の共有・活用へと新たな段階に入っています。2027年頃の本格稼働が予定される電子カルテ情報共有サービスの概要と、その基盤となる標準型電子カルテについて解説します。
現在、政府が進めている医療DXは、オンライン資格確認やマイナ保険証、電子処方箋などがあります。これらはあくまでも医療DXの入り口に過ぎません。国が次のステップとして本格的に進めているのが「電子カルテ情報共有サービス」であり、それを実現するためには「標準型電子カルテ」の普及が不可欠です。
2026年度診療報酬改定では、「電子的診療情報連携体制整備加算」が新設され、電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスへの対応が評価対象となりました。
■電子カルテ情報共有サービスとは?
電子カルテ情報共有サービスとは、全国の医療機関や薬局、患者本人が電子カルテ情報を共有・閲覧できる仕組みです。
現在、オンライン資格確認等システムでは、薬剤情報や診療情報、特定健診情報、電子処方箋の処方・調剤情報などが共有されています。今後はさらに、診療情報提供書(紹介状)や退院時サマリー、健診結果報告書の3文書と、傷病名や薬剤アレルギー、その他のアレルギー、感染症、検査結果、処方の6情報の共有が計画されています。
同サービスが稼働することで、例えば患者が紹介状を持参しなくても、紹介元の診療情報を受診先で閲覧できるようになります。また、救急搬送時には既往歴や服薬情報を迅速に確認できるようになることが期待されています。
つまり、医療機関ごとに分断されていた情報を全国で共有し、より安全で質の高い医療提供につなげることが電子カルテ情報共有サービスの目的なのです。現在、全国10か所で実証実験が行われており、その結果を踏まえて、2027年冬頃の全国稼働が見込まれています。
■なぜ「標準化」が必要なのか
しかし、電子カルテ情報を全国で共有するためには大きな課題があります。それは電子カルテメーカーごとにデータ形式が異なることです。このままでは、異なる電子カルテ同士で正確な情報共有を行うことができません。そこで国は、「HL7 FHIR」をはじめとする国際標準規格を活用しながら、電子カルテ情報の標準化を進めています。
電子カルテ情報共有サービスは、この標準化されたデータを前提として運用される仕組みなのです。
■標準型電子カルテが目指すもの
こうした標準化の流れの中で注目されているのが「標準型電子カルテ」です。標準型電子カルテとは、国が定める標準仕様に準拠した電子カルテであり、全国医療情報プラットフォームとの連携を前提として設計されるものです。
従来の電子カルテは、メーカーごとに独自仕様で構築されていました。そのため、病院ごとのカスタマイズや他システムとの連携、データ移行に多額の費用が発生することが課題とされていました。
一方、標準型電子カルテでは、クラウドネイティブの考え方に基づき、システム間の情報連携においてHL7 FHIRやAPI連携など、標準的なインターフェイスを定めることで、費用を抑えたシステム導入やデータ共有を実現しようとしています。
その結果、将来的には電子カルテメーカーが異なっていても、同じルールで情報共有できる環境の実現が期待されています。
■情報拡充の考え方
厚生労働省では、全国医療情報プラットフォームの構築に向けて、共有する情報の範囲を段階的に拡大する方針を示しています。「電子カルテ情報共有サービス」で共有される情報は、診療情報提供書等のように医療機関同士で直接やり取りされる情報と、臨床情報のように医療機関等から登録された患者情報をデータベースに格納し、複数の医療機関等で参照する情報に大別できます。
診療情報提供書や退院時サマリーなど、医療機関間で頻繁にやり取りされる文書情報の共有が進められます。全国の医療機関等から閲覧できる情報としては、オンライン資格確認等システム内にレセプト情報(薬剤情報・診療情報)、特定健診情報、電子処方箋の処方・調剤情報がすでに共有されており、今後は電子カルテ情報共有サービス由来の臨床情報も追加される予定です。
一方で、情報量の増加により必要な情報を探し出す負担が増えるという課題もあります。そのため、追加する情報については慎重に検討を進めていくとしています。また、情報を拡充する際には、医療機関等のシステム改修等が想定されるため、現場の負担軽減を図りつつ、拡充するべきではないかとしています。
■電子カルテ情報共有サービスの医療従事者向け指針(仮)
電子カルテ情報共有サービスに登録された情報は、医療機関間で共有されるため、登録時および閲覧時の情報の取り扱いに関する認識が統一されていない場合、誤解や誤用が生じる可能性があります。
そのため、医療従事者が共通の解釈のもとで情報を登録・閲覧できるよう、「医療従事者向け指針(仮)」の策定が予定されています。
■まとめ
電子カルテ情報共有サービスの本質は、医療情報を全国で安全かつ効率的に共有することにあります。そして、その基盤となるのが標準型電子カルテです。
これまで電子カルテは、紙カルテの電子化や院内の情報共有を目的としたシステムでした。しかし今後は、医療機関の枠を超え、地域、さらには全国の医療機関と情報をつなぐ社会インフラへと役割を変えていきます。
2030年の電子カルテ普及率100%を目指す国の方針のもと、電子カルテの標準化は今後さらに加速していくと考えられます。その中で医療機関に求められるのは、「電子カルテを導入しているか」ではなく、「将来の情報共有基盤につながる電子カルテを活用できているか」という視点です。
電子カルテ情報共有サービスへの対応と標準型電子カルテへの移行は、単なるシステム更新ではありません。これからの地域医療連携や医療DXの成否を左右する重要な経営課題であり、今後の医療機関経営を考える上で避けて通れないテーマといえるでしょう。
(MICTコンサルティング株式会社 大西 大輔)